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2025
FA業界新年賀詞交歓会
業界展望、今年の受注見通し
FA企業幹部約700人が出席好材料も多い一年に
ニュースダイジェスト社(ND)が主催する「2025 FA業界新年賀詞交歓会」が1月10日、名古屋市中区の中日ホールで開かれた。FA業界の経営者など約700人が出席した。今年の工作機械産業の展望について、NDの八角秀常務は1兆7000億円、日本工作機械工業会(日工会)の稲葉善治会長は1兆6000億円とそれぞれ見通しを発表した。第40回NDマーケティング大賞を受賞したDMG森精機の森雅彦社長には顕彰状とブロンズ像が贈られ、日工会の稲葉会長とDMG森精機の森社長をパネラーとする新春トップインタビューも開かれた。
業界展望
月刊生産財マーケティング
編集長 八角秀
2025年受注見通し
1兆7000億円
2024年の工作機械受注総額は12月分を推定した上で、前年比1.8%減の1兆4600億円となったもよう。内需は主要産業が底ばいだったが、外需が円安の効果で堅調に推移した。全体では単月で平均して1200億円以上の受注額と高い水準だが、体感する景況感は厳しい。その背景には「トレンドの見えなさ」がある。これまで工作機械業界の安定性を担保していた、自動車関連の設備投資の方向性が定まっていない。
25年の受注総額は同16.4%増の1兆7000億円と予測した。内訳は内需が同25.0%増の5500億円、外需が同12.7%減の1兆1500億円。年央以降に主要産業で設備投資の動きがあり、自動車や半導体関連など、各産業で後ろ倒しとなっていた案件が動き始めそうだ。だが、年後半に設備投資が活発化するには、9つの前提条件がある。「円安傾向の継続」「原油価格の一段安」「米中対立の緩和」「トランプ政権とリショアリング」「中国政府による経済支援策」「ウクライナ和平と復興需要」「インドなど新興市場の高度工業化」などだ。主要産業の方向性が見えず苦しい状況が続きそうだが、一年後には高水準の受注額の結果を迎えられるだろう。
今年の受注見通し
日本工作機械工業会
稲葉善治 会長
2025年受注見通し
1兆6000億円
2024年の工作機械受注総額は1兆4700億円となったもよう。内需は4400億円、外需は1兆300億円。受注総額は2年連続の減少となりそうだ。米国や中国が堅調だったのに対し、欧州が非常に厳しく、日本国内も苦戦した。だが、4年連続で1兆4000億円を超えており、決して悪い数字ではない。
25年の工作機械の受注総額は前年比8.8%増の1兆6000億円と見通した。内訳は内需が同13.6%増の5000億円、外需が同6.8%増の1兆1000億円。今年の前半は足元と同様の状況が続くものの、年後半にかけて回復の動きが徐々に鮮明化し、市況が緩やかに上向くとみている。鍵となるのは内需。円安が続いていることを考えれば、リショアリングがもっと進んでも良い。人手不足や少子高齢化の問題もあるが、それに対して自動化や知能化を実現する技術が整いつつあり、リショアリングは日本における大きな課題だ。
また、国内では老朽設備の更新についても大きな課題がある。日本の製造業の設備は、世界で最も古いといっても過言ではない。保有期間が10年を超える設備が全体の45%以上あるとされ、これまでは古い機械をメンテナンスし長く使い続けることは美徳とされていたが、今は生産効率や環境性能も考えなければならない。
NDマーケティング大賞
第40回NDマーケティング大賞贈呈式(DMG森精機 森雅彦社長)
第40回NDマーケティング大賞の贈呈式では、同賞選考委員長の清水伸二日本工業技術博物館長・上智大学名誉教授が、DMG森精機の森社長の受賞理由などを説明した。「ドイツのDMGと森精機製作所との経営統合を実現するなど、強力な統率力を発揮して社業を飛躍的に発展させた」と業績をたたえた。
森社長にはNDの樋口社長から顕彰状が、前回受賞者のユニオンツールの片山貴雄会長からブロンズ像が手渡され、出席者からは盛大な拍手が送られた。

受賞講演概要
森社長は「2007年の『月刊生産財マーケティング』の企画でDMGグループのルディガー・カピッツァ会長(当時)と対談し、意気投合した。これをきっかけに一緒に食事をするようになり、後の経営統合につながった」と思い出を語った。また「よく遊び、よく学び、よく働く」との企業理念も紹介した。
新春トップインタビュー
テーマ「どうなる今後のFA業界」
2025 FA業界新年賀詞交歓会では、恒例の目玉企画として「新春トップインタビュー」が実施された。同会の席上で受注見通しを発表した日工会の稲葉会長(ファナック会長)と、第40回NDマーケティング大賞を受賞したDMG森精機の森社長の2氏が登壇し、「どうなる今後のFA業界」とのテーマの下で活発な議論を交わした。司会はNDの樋口社長が務めた。白熱した議論の一部をここで紹介する(以下敬称略)。
日本工作機械工業会
稲葉 会長
前年より良くなる
――まずは日工会の稲葉会長にお聞きします。日工会は今年の工作機械受注額の見通しを1兆6000億円、NDは1兆7000億円とそれぞれ発表しました。NDの見通しが日工会を上回るのは今回が初ですが、この1000億円の差についてどうお考えですか。
稲葉 今年は大きなマイナス要因がありませんし、逆に言えばプラス要因もあまり多くない状況です。そのため、総合的には前年から若干増加すると見込み、1兆6000億円という数字を発表しました。この数字はそう大きく外れないだろうと考えていますが、ぜひともNDの見通しが当たってほしいですね。
――森社長は今年の工作機械受注額をどう見通していますか。
森 私は1兆5000億円~1兆7000億円の間になるとみています。わが社の今年のベストな受注とミニマムの受注のそれぞれの予測に対し、わが社のマーケットシェアを掛けると、それぐらいの水準になりそうです。前年より良くなるはずです。
――1兆6000億円も1兆7000億円も、歴史的に見ればかなり高水準です。しかし、数字ほどには景気の良さが感じられません。その要因は何でしょうか。
稲葉 一つは円安です。受注額をドル換算したら決して好調とは言えません。また、近年は部品調達費や資材費、光熱費、人件費など、さまざまなコストが高騰しています。売上高が伸びたとしても、思ったほど充足感が得られないのはそのためです。
DMG森精機
森 社長
得意技を磨く
――FA業界では近年、大手企業と中小企業の格差が広がりつつあると感じられます。その点についてどう考えていますか。森社長からお願いします。
森 工作機械業界には非上場の中堅企業や中小企業が数多くありますが、決算公告を見るとしっかりと稼いでいます。また、わが社のお客さまの規模別の構成比も昔からずっと、従業員数が100人以下の中小企業が半数以上を占めています。
稲葉 確かに大手企業と中小企業の間に格差があるのも事実です。しかし、中小企業でも独自の技術や営業力を持つ会社はしっかりと稼いでいます。大企業も同じですが、現状に安住するといずれ破綻します。
――昨年開催されたパリ五輪では、ともえ投げを駆使して金メダルに輝いた柔道女子48kg級の角田夏実選手が印象に残りました。角田選手の柔道は日本のFA業界が取るべき戦略にも通じるところがあり、得意技を磨くことが何より重要だと思います。
稲葉 昔から「君子は多能を恥(は)ず」「一芸は百芸に通ず」と言われます。競合他社がほとんど手掛けていない独自の加工技術や特許技術など、何か強い武器を一つ持つことは企業経営において重要です。
基本を徹底的に
――今回のテーマは「どうなる今後のFA業界」です。FA業界の行く末について、どうお考えですか。稲葉会長からお願いします。
稲葉 世界の製造業が現在目指しているのはスマートファクトリー化です。スマートファクトリー化にも2つの方向性があり、一つは従来通りの大量生産です。もう一つは、一品一様の商品を一個流しで効率的に生産するマスカスタマイゼーションです。それぞれの領域でデジタル技術や自動化を駆使してスマートファクトリー化を実現することが今後の競争軸になると考えています。
――森社長はいかがですか。
森 先ほどの柔道の角田選手の話に戻りますが、筋力や間合いなどの柔道の基本を徹底的に磨いたからこそ、ともえ投げが生きたのだと思います。こうした観点から日本の製造業を考えると、ものづくりの基本が揺らいでいると懸念されます。もちろん工作機械メーカーとしては熱変位対策を施した工作機械を提供しますが、その前に工場の基礎の補強や温度管理などの基本的な対策を徹底的にやるべきでしょう。