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受賞者インタビュー
受賞者インタビュー
第37回マーケティング大賞
ファナック
会長
稲葉 善治 氏

「自分は技術者」と意識
「いつまでたっても『自分は技術者』という意識が強いんですよね」――。そう言ってファナックの稲葉善治会長は穏やかにほほ笑む。
1973年に東京工業大学の工学部を卒業して、商用車メーカーのいすゞ自動車に就職した。車体、金型、物流、総組み(最終組み立て)など生産技術者として多くの現場を経験した。そのころに培った眼力は今も健在だ。「他社の工場を見せていただくと『ここは自動化できそうだ』とつい反射的に考えてしまって。血が騒ぐんです」。
自動車メーカーの仕事は気に入っていた。「ずっと続けるつもりでした。ファナックに入る気はなかったんです」。父でありファナックの創業者である稲葉清右衛門氏(本賞の第一回受賞者)と同居しており「家でも仕事の話ばかりする人で、『こりゃ24時間一緒にいたらたまらんぞ』と」。しかし、技術者として10年目を迎えるころ「うまく誘導されてしまって…」ファナックに入社する。
すると、いきなり電動射出成形機の開発を命じられ3カ月間の米国研修に。当時のファナックに射出成形機部門はない。新規事業の立ち上げプロジェクトだ。同僚5人で家を一軒借りて、昼間は研修、夜はドラフターを持ち込んでひたすら設計。真夜中になれば酒を飲みながら議論を続けた。なんとか基礎設計を終えて帰国すると、半年後に展示会を開くので3機種開発するよう社命を受ける。翌年の量産開始も決まり、その準備にも忙殺された。「あのころは一年間で10日も休みませんでした。遊び盛りの子供たちからは非難轟々(ごうごう)で」と笑う。「父は仕事ではとにかく厳しい人でしたけど、私も『仕事だから当然だよな』という感覚でした」。
次第に業績が認められ、開発部門の統括を任される。しばらくするとセールス部門との兼務も命じられた。その後の活躍は多くの人が知る通りだ。
「最近はモノからコトへって言いますよね。でもモノはなくなりません。鉄と油をおろそかにしたら未来はありませんよ。現場は鉄と、油と、汗と、時々涙でできてるんです」と満面の笑みを見せる。
(本誌編集長 八角 秀)
- ファナック
- 1972年設立。FA、ロボット、ロボマシンの3事業を中心にメーカーとして世界展開する。日本を代表する高利益体質の企業として知られる。資本金690億円。東証一部上場。従業員数8265人(連結、2021年6月現在)。